(推理小説・探偵小説)覚書

読後の覚書(主に推理探偵小説)

2017-01-01から1年間の記事一覧

『舞姫』 森鴎外

近代的自我なる聖杯を求めて 先だって二葉亭四迷の『浮雲』を読み、日本文学の黎明期の苦心と工夫とその発展とを目の当たりにした訳であるが、最近読んでいる渡辺直巳の『日本小説技術史』に於いて、『浮雲』の次に森鴎外の『舞姫』が紹介されていた。当然『…

『日本ミステリー小説史 黒岩涙香から松本清張へ』 堀啓子

お手軽な日本推理小説小史 どんなものでも、その歴史を調べるのは面白い。そして当然小説群にもその歴史的経緯が存在する。例えば、ポーの『モルグ街の殺人』、この小説が現代の推理小説界にポンと跳び出てきたとして、必読の書と看做されるようになるかとい…

『浮雲』 二葉亭四迷

二葉亭四迷による日本文学表現への挑戦 少し前に『真景累ヶ淵』を読んだ処、どうやら『怪談 牡丹燈籠』の方の様であるが、三遊亭圓朝のお噺の口述筆記本が二葉亭四迷の言文一致活動に影響を与えた事を知り、先行する文学を巧く参考にして書かれている小説も…

“The Leavenworth Case” Anna Katharine Green (『リーヴェンワース事件(隠居殺し)』 アンナ・K・グリーン )

東西ミステリーベスト100と並行して江戸川乱歩の選んだ古典ベストテンを最近読んでいる。そのリストの中に挙げられている小説の内、ドイルの『バスカヴィル家の犬』以外の他の小説は今となっては知名度的にそれ程有名では無くなってしまっている物が多い…

『文学とはなにか-現代批評理論への招待』 テリー・イーグルトン 大橋洋一 訳

小説読み方談義3 今までに読んだ書物の内容をほぼ総て忘れてしまっている事の虚しさから読後の覚書を書き残し始めたのではあるが、文章を書けば書く程、自らの読みの浅さを思い知り、これではいかん、何とか改善したいと思い、更には他の人の素晴らしい批評…

“The Moonstone” Wilkie Collins (『月長石』 ウィルキー・コリンズ)

コリンズの古典的傑作-呪われたダイヤ「月長石」を巡る超長編 推理探偵小説というものは、個人的な印象ではあるが、SF小説と並んでベスト何々みたいなリストが作られ易い分野であると思う。江戸川乱歩が作成したベストテンのリストも何種類か存在していて『…

『読書の方法』 吉本隆明

小説読み方談義2 ここの処、小説の読み方や読書の仕方みたいな事柄を扱った書物を割と読み始めている。こういう類の書物を読もうと思い立ったのは、『小説のストラテジー』の覚書を書いた時にも書いたのだけれども、小説をより良く味わいたいと最近頻りに感…

『アクロイド殺し』 アガサ・クリスティー

情報化社会の恐怖 私がアガサ・クリスティーを良く読んでいたのは随分昔の話であって、当時はポワロものは何冊かは読んでいたような気がするし、勿論、この『アクロイド殺し』も読んだのを覚えている。微かな記憶を辿ってみる処、当時はこの小説にあまり感心…

『芽むしり仔撃ち』 大江健三郎

この分断と衝突の時代に大江健三郎を改めて読む 『芽むしり仔撃ち』は1958年に発表された中編である。私はこの小説を10年少しくらい前に確かに読んだはずなのだが、再読中その記憶が蘇ることは殆どなかった。物忘れが激しいというのは何度も同じ小説を楽しめ…

『二銭銅貨』・『一枚の切符』 江戸川乱歩

江戸川乱歩会心のデビュー作 江戸川乱歩は大学を出た後、一つの職に長く落ち着く事も無くふらふらと色々な事を試しながら「何か面白い事でもないかしらん」と暮らしていたらしい。そして大正11年頃、妻子持ちであるにも拘らず、どうも現代で言えばニート扱い…

『酒と戦後派 人物随想集』 埴谷雄高

埴谷雄高が見てきた人々 15年程前に埴谷雄高の『死霊』が講談社文芸文庫から3分冊の文庫本で登場し、これは良い機会だから是非とも読まねばならん、と、私のみではなく、周りの読書好きは皆購入した。勿論、文庫本でなければちょっと高価ではあったが簡単に…

『バスカヴィル家の犬』 アーサー・コナン・ドイル / “Sherlock Holmes Was Wrong: Reopening the Case of The Hound of the Baskervilles” Pierre Bayard

著者の意図を離れて-怪奇探偵小説と秘められた物語 コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』を久方ぶりに再読してみた。最後に読んだのはかれこれ20年以上前になると思うが、ルブランのルパン物と共に私の怪奇冒険探偵小説体験の原点と言える小説である。今…

『真景累ヶ淵』 三遊亭圓朝

神経と怨念と因縁と 怪奇探偵小説には怨念や妄念は付き物である。そもそも犯人が淡白であったり理知的すぎるとそこで描かれる事件に怪奇風味が出てこない。やはり、犯人の側に何か狂気であったり、強い怨念や妄念の様なものが存在するので事件が怪奇がかって…

『魔都』 久生十蘭

魔都東京に妖しい奴等が跋扈する 久生十蘭は綺麗で幻想的な小さな物語を、煌びやかな言葉を散りばめ紡ぎだす屈指の短編小説家という印象が私にはあったのだが、このような『魔都』という長編の小説、しかも探偵小説に分類されるような長編を書いていた事は知…

『青春の蹉跌』 石川達三

秀才青年の躓きと破滅 文学好きなれば大抵の人は一度は芥川賞に興味を持った事はあるだろう。ではその芥川賞の第一回目の受賞者は誰かと言う事になると、案外知られていないような個人的感覚がある。第一回目の受賞者は石川達三であり、作品は『蒼氓』である…

『無惨』 黒岩涙香

本邦初の創作探偵小説ー黒岩涙香の挑戦 推理探偵小説というものはかなり特殊なジャンルの小説であるという事は誰しもが認める処であると思う。となると、さて、その探偵小説なるジャンルを確立した嚆矢はどの小説になるのか、という疑問が湧いてくる、勿論、…