(推理小説・探偵小説)覚書

読後の覚書(主に推理探偵小説)

2017-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『半七捕物帳』(一) 岡本綺堂

江戸の名探偵、半七の活躍 前にも書いたのだが、黒岩涙香が『無惨』を書きその評判が今一つだった後には日本の創作推理探偵小説というモノが中々出てこなかった。快楽亭ブラックが一応推理小説を書いてはいた様なのだが、それも数は多くはない様だし、どちら…

『怪談 牡丹燈籠』 三遊亭圓朝

幽霊と仇討ちと色と欲 三遊亭圓朝のお噺の口述速記本が言文一致の開祖であるというのは割かし良く知られた話である様だ。その中でも『怪談 牡丹燈籠』(1884年:明治17年)の口述本が言文一致に与えた影響はかなり大きい様で、二葉亭四迷が文章の書き方に関…

“The Big Bow Mystery” Israel Zangwill (『ビッグ・ボウの殺人』 イズレイル・ザングウィル)

本格密室殺人の嚆矢 相変わらず、江戸川乱歩の古典ベストテンを読み続けていて、これで丁度5作目を読み終わった。今回読んだのは1891年に発表されたザングウィルの“The Big Bow Mystery”*1、この小説は推理探偵小説史に燦然と輝く密室殺人トリックを提示し…

『死者の書』 折口信夫

繰り返し繰り返し日は昇り沈みゆく、その果てに 哲学的な思想と云うと、現代の日本では大抵の場合西洋の思想家が紹介されており、人口に膾炙するものも大抵は西洋の思想家である。一方で当然東洋にも東洋の思想が存在する。先日読んだ吉本隆明の『読書の方法…

“The Eye of Osiris” R. Austin Freeman (『オシリスの眼』 オースティン・フリーマン)

謎の失踪事件にソーンダイク博士が科学的推理で挑む ここの処、江戸川乱歩の古典ベストテンを読むのにハマっていて順番に読んでいっている。そもそも、推理探偵小説は往々にして先人の推理トリックを巧く作り直して、新たなトリックを構築する事があるので、…

『批評理論入門 「フランケンシュタイン」解剖講義』 廣野由美子

小説読み方談義4 ここの処、小説を読むのと並行して、文学理論に関係する様な書籍を選んで読んでいる。少し前に読んだイーグルトンの『文学とは何か』は個人的には近年稀に体験した衝撃であって、この領域の書物・理論に関する興味が増々膨れ上がって行く日…

『幽霊塔』 黒岩涙香 / 江戸川乱歩

涙香が描き、乱歩が愛した怪美人と幽霊塔 一時期、江戸川乱歩は小酒井不木や甲賀三郎と共に涙香的な筋や描写を持った娯楽探偵小説への復古を称揚していた。そして、その黒岩涙香への敬愛の念の現れか、涙香小史の翻案輸入物の内、推理探偵風味の強い『白髪鬼…

『舞姫』 森鴎外

近代的自我なる聖杯を求めて 先だって二葉亭四迷の『浮雲』を読み、日本文学の黎明期の苦心と工夫とその発展とを目の当たりにした訳であるが、最近読んでいる渡辺直巳の『日本小説技術史』に於いて、『浮雲』の次に森鴎外の『舞姫』が紹介されていた。当然『…